「市民農園」は、農業体験農園、ふれあい農園などいろいろな名称で呼ばれており、それぞれの名称で聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
サラリーマン家庭や都市の住民の方々のレクリエーション、高齢者の生きがいづくり、生徒・児童の体験学習などの多様な目的で、農家でない方々が小さな面積の農地を利用して自家用の野菜や花を栽培する農園のことをいいます。
市民農園のタイプは、農地貸付けの有無によって、大きく2つに分類できます。
「貸付方式(貸し農園タイプ)」、「農園利用方式」です。
また、市民農園の開設には3つの形態があります。
「特定農地貸付法(都市農地貸借法)によるもの」、「市民農園整備促進法によるもの」、「農園利用方式によるもの」です。
今回は、「特定農地貸付法(都市農地貸借法)による貸付方式(貸し農園タイプ)」について記述いたします。
「農村振興局都市農村交流課調べ (平成27年3月末現在)」では、この方式で開設された個所は3,668箇所ということですので、この方式での開設は少なくないようです。
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はじめに
農地法の特例制度
現在の農地法では、平成21年の農地法等の一部を改正する法律の施行により一般の株式会社やNPO法人など農地所有適格法人以外の法人も以下の要件を満たせば、農地を借りることができるようになっています。
- 農地を借りる際に書面による解除条件付の契約を結ぶこと
- 地域農業において他の農業者と適切な役割分担を行うこと
- その法人の役員、または重要な使用人の1人以上が農業に常時従事すること
※要件を満たしても買うことはできません。
農地を借りる際には、上記の要件を満たし、かつ「農地法で定められる要件(農地法3条許可)」を満たす必要があります。
許可を受ける主な要件として、相当規模の経営面積を持つ農業者であること。
また、転貸目的、転売目的の権利取得は認められません。(自ら耕作せずに他人に貸すために農地等の権利を取得すること)
しかし、特定農地貸付法(都市農地貸借法)では、当該法に基づく手続きによって農地法の権利移動統制の適用が除外されます(農地法3条許可が不要)。
特定農地貸付法
楽しみや生きがいとしての農業のニーズが高まる中で、農地法の特例として条件付きで小規模な農地の貸借を認める「特定農地貸付法」が平成元年9月に施行され、地方公共団体又は農業協同組合が実施する場合に限り、小規模な農地を貸借する道が開かれました。
特定農地貸付法(都市農地貸借法)は、利用者に小面積の農地を一定の条件の下に貸す
こと(特定(都市)農地貸付け)を農地法の特例として認めるものです。
平成17年には特定農地貸付法が改正され、地方公共団体と農協に限らず、 地方公共団体、農業協同組合、農業者、企業、個人、任意団体(自治会、営農組合) 、NPO法人等、誰でも開設できるようになっています。
貸付方式の市民農園とは
貸付方式とは、市民農園開設者が利用者に農地を貸す方式で、特定農地貸付法に基ずく手続によって、誰もが開設可能となります。
また、開設者による市民農園の開設の目的は営利を目的としたものであっても差し支えありません。
開設者は、農地の貸付けに関する特例制度(特定農地貸付法、生産緑地は都市農地貸借法も活用可能)を活用した市民農園を開設することができ、利用者は、農園開設者(上記の開設者)から農地を借りて、野菜づくりなどを行います。
利用者は農園開設者から一定の条件で農園区画を借りて、利用者が自ら計画して、自由
に作付けすることができ、収穫物は利用者の物となります。
貸付方式での開設者の要件
貸付方式(特定農地貸付方式(都市農地貸付方式))の市民農園を開設する場合には
農園開設者が以下の要件を満たす必要があります。
- 市民農園の利用者(農地を貸す相手)は複数人である事
- 1区画 10a未満の貸し付けである事
- 貸付期間が5 年を超えない事
- 市民農園の利用者(農地を貸す相手)は複数人である事
- 営利目的で農作物を栽培しない事
- 地方公共団体以外が貸付けを行う場合は、以下の土地である事
- 自己所有農地(所有者が市町と貸付協定を締結している場合に限る。)
- 農地中間管理機構(農地バンク)又は地方公共団体から貸付けを受けた農地(その貸付けを行った農地中間管理機構等及び市町との間で貸付協定を締結している場合に限る。)
- 農業協同組合が行う農地の貸付けにあっては、組合員が所有する農地( ※地域によっては農地中間管理機構(農地バンク)から市民農園用の農地を借りることはできません。)
- 貸付協定:
・農園開設者が、市民農園として農地を適正に管理・利用すること等を約束するため、農地の所在する市町村と締結する協定です。(借り受けた農地で開設する場合には、借り先である地方公共団体(市町村)又は農地中間管理機構を含めた三者で締結する)。
・生産緑地で市民農園を開設し、相続税等の納税猶予を受けようとする場合、「農地利用が不適切な場合、協定を廃止する等」の記載が必要です。 - 生産緑地:
生産緑地法により市町村が指定した、市街地に位置する一定の条件を満たした緑地のことです。
生産緑地法とは、都会に残る農地などの緑地を守り、緑と調和する健全な都市環境を作ることを目的とした法律です。
農業委員会の承認
特定農地貸付けを行うためには、市民農園の開設者が農業委員会に申請して、その承認を受ける必要があります。
また、特定農地貸付けを行うための農地の権利を取得する必要がある場合、承認を受けることで、この権利も取得することができます。
(別途、農地所有者との間で賃貸借等の契約を締結する必要があります。)
以下のような市民農園開設の場合は農業委員会の承認を受けることができません。
- まとまった農地があるような地域で、市民農園の位置が農業者による農地の利用を分断する場合
- 利用者の募集及び選考の方法が公平かつ適正でなく、特定の者のみに利用が集中するような場合
- 貸付条件が違法不当な場合
- 賃借権等の所有権以外の権利を既に有している農地で開設する場合 など
農地所有の有無・開設地域ごとの開設手続の概要
自己所有地で特定農地貸付けを行う場合
農地所有者が開設者(農業者等)の場合、市町村と市民農園の適切な運営に関する貸付協定を締結し、農業委員会の承認を得て、市民農園を開設します。
- 市町村と貸付協定の締結
- 貸付規程の作成
- 農業委員会に申請(①②を添付)
- 農業委員会の承認
- 利用者への特定農地貸付け(使用収益権の設定)
※生産緑地でも共通・地方公共団体及び農業協同組合は除く
自己所有地以外で特定農地貸付けを行う場合
生産緑地以外の農地を借りて市民農園を開設する場合(特定農地貸付法)
農地を所有していない企業やNPO法人等は、市町村と市民農園の適切な運営に関する貸付協定を締結し、農業委員会の承認を得て、地方公共団体又は農地バンクから農地を借り受けて、市民農園を開設します。
- 市町村と貸付協定の締結
- 貸付規程の作成 ③農業委員会に申請(①②を添付)
- 農業委員会の承認
- 所有者と市町村又は農地バンク間で所有権又は使用収益権の設定
- ※市町村又は農地バンクと開設者間で使用貸借による権利又は賃借権の設定 ⑦利用者への特定農地貸付け(使用収益権の設定)
※地域によっては農地バンクから市民農園用の農地を借りることはできないため、
「所有権または使用収益権を取得できる市町村」と使用貸借による権利又は貸借権を設定
生産緑地の農地を借りて市民農園を開設する場合(特定都市農地貸借法)
農地を所有していない企業やNPO法人等は、農地所有者及び市町村と市民農園の適切な運営に関する貸付協定を締結し、農業委員会の承認を得て、農地所有者から直接農地を借り受けて、市民農園を開設します。
- 農地所有者及び市町村と貸付協定の締結
- 貸付規程の作成
- 農業委員会に申請(①②を添付)
- 農業委員会の承認
- 農地所有者から直接農地を借り受け
- 利用者への特定農地貸付け(使用収益権の設定)
※地方公共団体及び農業協同組合は除く
※法律の手続前に既に借りている農地で貸付方式の市民農園を開設することはできません。
- 貸付規程:
農園開設者が農園利用者へ農地を貸し付ける基本的なルール - 使用収益権:
土地の場合は、地上権、永小作権、賃借権その他の土地の使用及び収益を目的とする権利 - 使用貸借による権利:
使用及び収益をした後に返還することを約して、相手方からある物を無償で受け取る権利
おわりに
市民農園の開設は、開設主体や開設地域などによって異なりますが、「一般的な手順」のとして以下のようになると思います。
- 市民農園の構想を練る
・市町村に市民農園の相談
・ニーズの把握
・開設目的の明確化
・開設場所の選定と開設方法の決定 - 市民農園の設計
・利用者のニーズを踏まえた区画面積の設定
・市民農園施設の整備内容などを検討
・料金設定や利用期間、運営体制などを検討 - 市民農園の開設手続
・必要となる関係法令の手続きを確認
・申請手続き - 市民農園の開設準備
・市民農園の整備
・利用者の募集 - 利用開始・運営管理
今回の投稿は上記「一般的な手順」のほんの 一部となります。
新規に市民農園の開設を考えている方において、開設方法のすべてを理解するのは難しいことですし、他にするべきことも山のようにあります。
役所担当者と相談をしながら、市民農園の構想を具体化し、一歩ずつ前進していけるものと思います。
最後まで読んで頂いたことに感謝するとともに、少しでも参考になることがあったなら本望です。