前回の投稿(行政書士の簡単解説④)では、市民農園の開設について記述いたしました。
その中で、市民農園のタイプは、農地貸付けの有無によって大きく2つに分類でき、「貸付方式(貸し農園タイプ)」と「農園利用方式」があることを既述しております。
今回の【農業体験農園】は、「農園利用方式」に分類されます。
しかし、従来の市民農園とは違った発想から生まれたもので、農業経営(ビジネスモデル)としての位置づけとなっています。
都市農業にしかできない機能と役割を最大限に発揮した先進的な農業経営類型として、平成21年には日本農業賞(集団組織の部)大賞を受賞するなど、全国的な注目を集めています。
はじめに
まず、「農園利用方式」とは、相当数を対象として定型的な条件で、レクリエーションその他の営利以外の目的で継続して行われる農作業の用に供するものをいいます。
継続して行われる農作業というのは、年に複数の段階の農作業(植付けと収穫等)を行うことをいうものであって、果実等の収穫のみを行う「もぎとり園」のようなもの、例えば「いちご狩り」等はこれに当たりません。
具体的には、農業者(農地所有者)が自ら農業経営を行い、利用者は農地内の指定された場所(区画)に入園して、園主(開設者)の指導管理の下で農作業を体験するというものです。
従来、農地は農地法に基づき、売買したり貸借する場合には、原則として農業委員会(又は県知事)の許可を受ける必要があります。
しかし、この方式では利用者への農地の権利の設定・移転を伴わないため、農地法等の手続は必要ありません。
※農園開設に当たり、開設者が農地の権利を取得する場合には、農地法等の手続が必要です。
「農業体験農園」は、上記の方式によるものです。
しかし、あくまでも耕作の主体は農園主(開設者である農業者)であり、入園者(利用者)は農園主の指示(カルチャースクール的な講習会)にしたがい、複数段階の農作業を体験する農園を言います。
農家が経営者として農園の管理運営を行い、行政は施設整備費・管理運営費の助成と募集の援助を行う役割分担があることから、自治体開設型の農園に比べて、管理運営面の行政側の負担は軽減されます。
この農業体験農園は東京都練馬区で生まれた形態で、練馬方式とも呼ばれています。
平成8年度に練馬区に農業体験農園第1号の「緑と農の体験塾(園 主:加 藤義松 氏) を開設しました。
農業体験農園には、都市近郊農業の維持・発展に奇与する機能として「経営の安定性
の向上」「地産地消の推進」「都市住民と生産者の交流の場の提供」などがあり、都市化の進展に対応した市民参加型の農業ビジネスモデルです。
市民農園(貸付方式)と農業体験農園の違い
双方の違いをまとめると以下のようになります。
市民農園
- 農業経営とはならない。
- 農園主は入園者に指導(講習会等)をしない。
- 作付けする種類や作業は入園者の自由にできる
- 農業資材を自前で用意をして栽培
- 農産物の品質は入園者に委ねられる。
- 収穫物は入園者のものになる。ただし営利を目的としてはならない。
- 利用契約は5年以内とする所が多い。
農業体験農園
- 農業経営は、農地所有者自らが行う。
- 農園主が講習会などを通じて入園者の指導にあたる。
- 作付けする種類や作業まで細かく指示する。
- 農業資材や種や苗なども開設側で用意されている
- 入園者は高品質の農産物が収穫できる。
- 収穫物は入園者に販売する。
- 入園契約は1年以内の短期間で行う。
上記の違いを見てみると、利用者側の状況や嗜好或いはビジョンによって、どちらを利用するかは変わってきますが、農業体験農園のほうが、初心者にとっては気軽に作物の栽培を始められるように思えます。
農業体験農園のしくみ
- 都市部の生産緑地などで新たに農業体験を実践する場として、農地所有者が農業体験農園を開設します。
- 農業者は、栽培計画の作成、農園の整備、入園者の募集を行い、行政は、施設整備費・管理運営費の助成と募集の援助を行います。
- 応募があった入園希望者に対し、 説明会を開催して農業体験農園の説明と申込み契約を行い、農業体験農園の開園となります。
- 園主は、自らが所有している農地において、月に1回程度講習会を開催すること等で1年を通じて入園者を実技指導していきます。
- 園主は、農業体験の場や栽培の知識、生産物を提供し、その対価として入園料と一般的には収穫する農作物の購入料を受け取ります。
※画像は愛知県のホームページから拝借させて頂きました。
農業体験農園ビジネスモデルの可能性
発祥地である練馬区では、1区画面積30㎡につき年間5万円(生産物の代金を含む)で入園者を募集しています。
※練馬区民は助成金があるため、入園者の負担は年間38,000円です。
例えば50区画の募集で全て入園した場合、市場価格などに左右されない年間250万円の収入が見込めます。
農園の管理コスト等に関しては、利用者が基本的に日々の管理行い、栽培や消費をするためため、園主は農園全体の整備や指導をするだけになりますので、生産や販売に関わる人件費他のコストを大幅に削減することができます。
農園の整備等に関しては、園内の見回りや入園者の管理のフォロー、農薬散布、耕うんや種苗の準備などがあげられ、指導に関しては、土日にまとめて講習会として行うことが多いようです。
従来の農業経営を行いながら、無理なく農園の運営を行える区画数を設定することで大きな労力の負担とはならないでしょう。
ただ、体験農園の初期投資として、農園の整備、倉庫の設置、農業資材等に加え、トイレを設置する場合もあります。
その場合でも、最初の投資は必要ですが、区画数や入園者とのバランスがとれれば収益が安定し、初期投資の費用もで回収できる期間が短縮されると思われます。
また、初期投資回収後のコストに関しては、一般的な生産販売コストと比べても負担は少ないでしょう。
以上のことから、従来の農業経営を行いながら、新たな収入源が確保できるということになります。
情報収集と戦略
農業体験農園が農業者にとってメリットになり得ると言っても、安易な気持ちで農園を開設すれば、負担ばかりが増えることになりますので、事前の入念な情報収集や戦略を練ることが必要です。
例えば以下のような事などを考えておく必要があります。
・公共交通機関に近い農園の確保や駐車場の有無
・農業体験農園の増加に伴う差別化や付加価値化
・入園者が継続するための仕組み作り
・会員数が増えるまでの収益性
付加価値面では「BBQスペースを設置」することで入園者の満足感があがったり、「入園者と」あるいは「入園者同士」の交流が生まれるとコミュティーが形成されることも考えられます。
練馬の白石農園さんの代表は、「NPO法人 畑の教室」も立ち上げておられます。
学校と農家を結ぶ支援活動として、子どもたちの食育のサポートをしているようです。
具体的には、農業体験学習の場として畑の提供や給食への野菜供給、また、ゲストティーチャーとして教壇に立つこともあるようです。
練馬区の「農業体験農園」の事例の一部です
こういった成功事例を見ながら、「コミュニティーによって、入園者の継続率が上がったり、口コミ効果で入園希望者が増加することもあるのでは」云々。
いろいろなアイディアや、或いは、悩ましいことも出てくると思いますが、そんなことを考えながらの経営が楽しめたら、きっと良い結果が得られるのではないかと思います。
おわりに
生産緑地の2022年問題はよくメディアでも取り上げられています。
全国に生産緑地地区として指定された農地は約1万3,000ヘクタールあり、そのうちの約8割にあたる約1万400ヘクタールが2022年に30年の期限を迎える予定です。
2022年以降も固定資産税の減税・相続税の納税猶予措置を受け続けたい場合は、そのまま特定生産緑地の指定申請を出し、農業を営み続ける必要があります。
自分で続けるにしろ後継者に任せるにしろ、農業を続けられる人がいなければなりません。特に後継者不足は今後の農業に大きくのしかかっている問題です。
しかし白石農園さんのように、教育・生涯学習・福祉・レクレーション・文化の継承など、農業のもつ多面的な機能を生かした社会活動も行うこともできますので、よりいっそうクリエイティブな職業となるのではないかと思います。
生産緑地など、都市部に近いところで農業を営まれている方は、農業体験農園に挑戦されてみてはいかがでしょうか。