行政書士事務所を開業間もない場合、業務経験のない人はどうしたらそれを覚えることができるのでしょうか。
今回は許認可業務を行うにあたって、相談業務までの必要な共通手順について記述したいと思います。
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はじめに
行政書士の業務は、他人の依頼を受けて、報酬を得て書類を作成するものです。
大きく分けて以下の3つがあります。
- 官公署に提出する書類
- 権利義務に関する書類
- 事実証明に関する書類
権利義務に関する書類として主なものは、遺産分割協議書、各種契約書があり、事実証明に関する書類としては、各種図面類、各種議事録、会計帳簿などがあります。
官公署に提出する書類は、他の法律で制限されているものを除いてもその数は膨大です。
そのほとんどが許認可等に関するもので、総務省の調査によると許認可の種類は約12,000種類あります。
移り変わりの激しい現代においては、今メジャーではない許認可業務でも、将来的には需要が高くなるかも知れません。
「行政書士として開業する予定がある」又は、「開業したけど業務が定まっていない」なら、まずは許認可業務から取り組んでみてはいかがでしょうか。
新人行政書士に相続関連業務が向かない理由
行政書士試験では家族法の中で相続に関する出題がありますので、新人行政書士にとってはなじみやすいためか、遺産分割協議書作成などの相続関連業務に取り組み始める人も多いと思います。
しかし開業間もない新人行政書士にとっては、かなりハードルの高い業務の一つでもあります。
相談窓口が大変多く、資産家や相続についてよく知らない人がまず頭に思い浮かべるのは、ネームバリューのある銀行・税理士・弁護士ではないでしょうか。
これらの銀行や士業から依頼があるのだとしても、彼らプロから実績のない行政書士にはまず依頼はきません。
また、直接相談があったとしても、弁護士法、税理士法、司法書士法など他の法律において制限される要素が複雑に入り混じっているため、新人にとっては他士業法に抵触する危険性が高くなります。
このことは、他の権利義務に関する書類についても同様です。
そして、遺産分割協議書作成についてのセミナーや相談会を開催したとしても、そこに集まる人たちは、必要性は感じているものの具体的な期限(○月○日までに必要)を設定している人は少数です。
したがって、実際の依頼になるには、時間を要することが多いのです。
新人行政書士に許認可業務をすすめる理由
許認可業務は様々な種類がありますので、中には「興味を持てるもの」や「今までの経験上関心が持てるもの」などが何種類か見つかることと思います。
「特にこの分野」とあらかじ決めていなかった人にはうってつけです。
興味や関心をもって取り組むことでその熱意が話す相手に伝わり、同じ嗜好の人が自然とあなたの廻りに集まります。
すると「相談を受ける」又は「依頼を受ける可能性」がグッと高くなります。
また、前提として職域・業際のポイントを抑えておく必要はありますが、許認可業務の「官公署に提出する書類作成」という性質上、他の法律で制限されることがほぼありません。
そして、許可を必要とする人には、「○月○日までに必要」・「なるべく早く許可を取得したい」といった具体性や至急性が高いため勝負も早くなります。
それでも「相続関係をやりたい」と考えるのだとしても、先ずは許認可業務に取り組みながら、ゆっくりじっくりでもよいのだと思います。
個人開業であっても、事務所経営においては早く売上につながる業務をまず選ぶべきだと考えます。
許認可業務習得の概要
許認可業務の習得法については、「実務書や講習会などで勉強する」、「実戦で覚えていく」ということが考えられます。どちらも正しいのですが、どちらかに偏っていれば効率的には正しくはないものです。
開業当初はやるべきことが山のようにあるため、そのたびに実務書や講習会で学んでいては、時間もお金もかかりますし、学んだ時はなんとなくわかったように感じてしまいがちです。
また、準備を誤り、又は怠るとせっかく獲得できそうな顧客を逃してしまいます。
許認可業務は種類も多い上、お客様の相談内容や依頼も様々です。
開業間もない業務未経験の行政書士が、最初から許認可業務を絞って特化することも難しいと思います。
とはいえ、ある程度自分のやりたい業務を何種類か決めておく必要があります。
そうでなければ実務を行う上で、なにも準備ができません
逆に言えば何も準備していない業務に関しては、相談を受けることはまずありません。
例えば、ホームページで紹介していない業務の相談がメールや問い合わせフォームから舞い込むことは考えられないですよね。
依頼者や相談者があなた自身のことをよく知っている人であれば別ですが。
許認可業務は、依頼者を代理して書類を作成し官公署(役所)に提出・申請します。
役所は提出された書類をチェックして、許可・不許可を通知します。
すなわち、役所は許認可の申請には準備された「申請の型」・「判断の基準」を知っているということです。
相談者の疑問を解消し、又は依頼者の希望に応える為には、「申請の型」・「判断の基準」の情報を、能動的に自分で入手しなければなりません。
そこで、新人行政書士に必要なのは、経験のない許認可業務の相談を受けた時のために、効率よく調査し、基礎となる部分を知る方法です。
ベテラン行政書士にとっては当たり前の事となりますが、業務未経験の新人行政書士にとってはその当たり前のことが分からないこともあると思いますので、以下、ご参考になればと思います。
官公署の活用と対象となる許認可の調査
申請先の調査
「地域名(管轄)+許認可名」でネット検索し、許認可名ごとにシート(整理した表)を作成し調査項目を記入します。
例:農地法4条許可の場合(○○市にある田を宅地に転用)、○○市+農地法4条許可で検索し、自治体のページを開きます。
調査項目は、以下になります。
- 申請書提出場所の名称 例:農業委員会
- 住所
- 電話番号
- 申請窓口(窓口指定があれば)
- 受付時間
- 申請締め切り日 例:毎月10日締切・11月12月は2カ月に一度
- 郵送の可否 例:郵送不可
- 事前審査の有無(申請前のチェック制度の有無)
隣接管轄(依頼を受ける可能性のある地域)についても同様に調べておくとよいでしょう。また、不明点があれば書き足せるように持ち歩いていると、役所に行ったついでにその担当窓口で確認できます。
申請内容の調査
「許認可名+申請の手引き、申請書記載例」でネット検索し、自治体のホームページでダウンロードします。
自治体によっては大雑把な手引書もありますので、分かり易い地域の手引書などを併用します。
併用する意味は、自治体によってそれぞれローカルルール(地域特性に応じたルール)があるためです。
各許認可に共通する項目の調査
許認可名別に調査項目をシートに記入します。
調査項目は、以下になります。
- 処理期間(審査期間) 例:申請書受付後約30日
- 書類の提出部数 例:正本1部・副本2部
- 役所手数料と納付方法 例:許可手数料9万円
- 申請予約の要不要 例:不要
- 許可証の受領方法 例:郵送・直接役所で
- 更新の受付期間 例:有効期間満了2カ月前から30日前
- 役所からの更新案内の有無 例:有り・無し
ローカルルールがあれば備考欄を設けて記入します。
「申請先の調査」と同様、不明点があれば書き足せるように持ち歩いていると、役所に行ったついでにその担当窓口で確認できます。
「申請先の調査」・「申請内容の調査」の結果をシートにまとめておくことで、同じ許認可業務を行うときに、その都度調べ直す手間を省けます。
許認可別の項目の調査①
申請書の作成に必要な情報をリストアップします。
リストアップするのは、住所・氏名・年齢・職業の他に申請書に書くべき内容で依頼者にしかわからないことです。
例えば、農地法4条許可申請書の場合には、「土地の所在について」や「転用計画」等を記入する欄があります。
リストアップ項目の一部として
- 「申請者が法人かどうか」 例:法人
- 「土地の利用状況」 例:休耕中、畑として利用中など
- 「用途」 例:農家の住宅、太陽光発電など
- 「利用期間」 例:許可日~永久
以上等をヒアリングシートに仕上げます。
許認可別の項目の調査②
添付書類取得に必要な情報をリストアップします。
リストアップするのは、申請書以外の添付書類を取得するために必要な情報です。
例えば、農地法4条許可申請書の場合、「申請者が法人か否か」や「申請地が土地改良区か否か」などで添付書類が変わってきます。
リストアップ項目の一部として
- ☑隣地承諾書 「隣接地に農地がある場合」 例:無し―不要
- ☑地役権者などの同意書 「地役権者等の権利者がいるかどうか」例:無し
- ☑土地改良区の意見書 「申請地が土地改良区内かどうか」 例:土地改良区内
- ☑住民票 「登記簿と現住所が違う場合」 例:同じ―不要
以上等を添付書類一覧と対比できるようにヒアリングシートに仕上げます。
ローカルルールがあれば備考欄を設けて記入します。
また、「書類の綴じ方」も官公署の担当窓口なども機会(役所との面談の際)を見て聞いておきましょう。
許可要件の調査
許認可を取得するための肝となる部分です。
相談者が許可取得のための要件に当てはまるか否かヒアリングシートに質問形式にしてまとめておきます。
手引書を読み進めると専門用語が多数出てくると思いますが、一つ一つそれらを調べ上げ理解を深めることが求められます。
各段階で共通して言えることですが、どうしてもわからない部分は、その業務に精通している先輩行政書士に聞いたり、役所の担当者に尋ねることで解消しましょう。
解らないままにしておかないことが大切です。
(私の経験ですが、行政書士であることを名乗っても、役所の担当者は案外親切に対応してくれました。そのときは真摯かつ誠実に質問しましょう)
また、相談者から電話やメールで許認可取得したい旨の相談があっても、一般的な基準が満たされていない場合その後の面談や作業が徒労に終わってしまいます。
したがって、まずファーストコール時に住所・氏名・連絡先の他に確認すべき事を見極める必要があります。
これらのことを考慮して手引書は十分に読み込みましょう。
ファーストコール時の注意事項ー許可取得の可能性を探る
例1:農地法4条許可の場合
申請地の立地が農用地区域であるにもかかわらず、「1カ月以内に転用したい」等と言われても不可能ですので、申請地の所在をファーストコ―ル時に確認しておきます。
また、「1」で調査した「申請締切日」・「処理期間」を考慮して、許可が必要となる時期の確認も必要です。
例2:新規の建設業許可の場合
「法人・個人の別」「知事許可・大臣許可の別」「取得したい業種」「請負年数」「資格者の有無」をファーストコール時に確認しておく必要があります。
また、知事許可の場合、審査期間が30日~60日であるにもかかわらず、「1カ月以内に許可取得したい」等と言われても不可能ですので許可を必要としている時期の確認も必要です。
以上のことを確認しておくと、大体の目安となる見積書の作成もできます。
後は、住所・氏名・連絡先を聞いておき、具体的な日時を設定して面談につながるように努めます。
そして、この時に得た情報はヒアリングシートに書き込んでおくと、面談に至らなくても後のDMなどで見込み客につながります。
値決めをする
報酬額は、それぞれの事務所の形態で決め方が変わってくることと思いますが、ここではひとりで個人開業した場合(私と同じ場合)を想定しています。
- 参考資料として、まず日本行政書士会連合会で公表されている「報酬額の統計」があります。
許認可ごとに報酬額が記載されていますので、その「最頻値」を拾い上げておきます。 - 次にインターネットで事務所のある地域や隣接地域で、他の個人事務所の報酬額を調べます。
- 一番高い報酬額と低い報酬額を除いて平均値を求めます。
- 「最頻値」と「平均値」を比べて高いほうを採用します。
「その金額では顧客の希望に反映されないのでは」と思われるかもしれませんが、その理由として次のことがあります。
- 顧客それぞれの事情により、難易度が変わってくるので目安となるものでよい事。
(相談後に改めて見積書を提出する際、金額が安くなれば顧客満足度がアップします) - 仕掛中の案件に手間取ってしまい、急ぎの案件を先輩行政書士にお願いする場合もあるので、最初から安い値段設定は得策ではない事。
- 少々高めの設定ならば抱き合わせ価格を設定しやすい事(他の商品と一緒に頼むと安くなる設定にする手法です)。
例えば、建設業許可申請+会社設立セットは、会社設立報酬50%値引き等です。)
他には、コストプラス法という事務所のコストを計算して利益をのせる方法もあります。
行政書士事務所では、人件費(自分の費用含む)、事務所家賃、広告宣伝費等の経費を考慮して算出しているところもありますが、開業初期の段階でコストプラス法を使おうとしても、不確定な要素が多いため、報酬額算出に手間取ります。
大事なのはあらかじめ目安となる金額を決めておくことです。
相談業務について
まず、相談に応じる場所ですが、なるべく相談者のオフィスで行うことをお勧めします。
まだオフィスがないという場合は別ですが、許認可を取得したいという人の多くは個人であれ、法人であれ、既に何かしらの商売をしているケースが多く、資料も備えられています。
その効果については後述いたします。
さて、相談日が決まった場合「それまでに準備すること」や「相談中に注意すること」には何があるでしょうか。
相談日までに準備すること
- 個人情報の取り扱いに関する書面
- 調査したシートの内容をある程度頭に入れておくこと。
- ヒアリングシートを面談の流れに沿った順番で整理しておくこと。
- 目安となる見積書を作っておくこと。
- 委任契約書・委任状を用意しておくこと。
- 準備してもらう書類の一覧を作成すること。
- 手順の案内(ロードマップ)を作成すること。
ロードマップの例:各ステージ項目
- 相談者にヒアリング(相談日当日)~
- ヒアリングをもとに見積書提出と次回面談日予約~
- 相談者と再面談ー着手金の案内、委任契約書・委任状押印、営業所の撮影など~
- 提出書類の確認~
- 役所との面談―再度書類の収集が必要な場合有~
- 申請日―大体の目安となる日付~
- 許可通知書の受領日(最初の相談から2カ月~3カ月)ー大体の目安となる日付~
- 許可取得後の説明
以上のような各ステージを示し手順として説明します。
また、ステージごとの目安となる日付をできるだけ入れておきます。
面談日当日の注意点
相談業務については、行政書士法第1条の3第4項に「行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること」とあります。
要するに確定している事実を抽出して書類を作成する為の相談に応じることです。
しかし、相談者にとっては我々の業務範囲は判りませんので当該許認可にかかる金額の話が先行したり、その他の不確定な事に対する疑問を解消しようと話がそれてしまいがちです。
そこで、こちらのペースで話の流れを作る必要があります。
順序としては次のとおりとなります。
- 書類の説明
例えば建設業許可の場合、許可を取得するためには、大きく分けて「人材」「施設」「財産」「社会保険の加入の有無」の要件を満たすことを、書面で明示し、立証する必要がある旨など - 手順の案内
作成したロードマップの提示と説明をします。 - 情報の取得
作成したヒアリングシートに沿って情報を収集します。 - 準備していただく書類の提示と説明。
相談者のオフィスであれば、この段階で添付書類としてそろっているもの、提出できるものが確認でき、了承を得て預かります。
「施設」である事務所内をさりげなく見回して間取りや備品類の確認もしておきます。 - 相談者の疑問の解消
・以上の流れの中で相談者の疑問を予めつぶしておくことが理想です。
・なお質問があれば業際に注意して対応し、解らない質問に対しては後日回答します。
・必要に応じて、目安となる見積書提示、委任契約書等の押印をもらいます。
・見積もりを修正する必要があれば提出日を伝えます。
・更なる面談の必要があれば次回の面談日の予約をします
終わりに
「新人とベテランの大きな違いは」と言われれば、単純に業務実績の違いとなります。
その業務実績を細かく分解すると、その大きな要素の一つに「調べ上げたことの蓄積」があります。
単に「情報の蓄積」というだけでなく、調べ方・調べる順序等の「調査する技術」の有無と言えるでしょう。
この「調査してまとめる作業」というのはマーケティングでも大切ですよね。
万が一、予備知識のない許認可の相談が飛び込んできても、その旨を説明し、準備する時間を確保できれば慌てることはありません。
確保できなければ、その業務に詳しい先輩行政書士を紹介し、相談時に同席させてもらえばいいのです。
その為には、日ごろから先輩行政書士との付き合いを大切にすることです。
わからないこと、困ったことを相談できるブレーンを持つことに繋がり、その結果、業務のスピードアップを図ることができます。
ただし、相手の時間をあまり奪うことのないように配慮する必要はありますので、自治体で公開されている手引書をもとに、先ずは自分で調べてみることをお勧めいたします。
そして、時間をかけずに調査することに慣れれば、集客等にもっと時間を使うことができますので、その結果、売上が増加していくことになります。
調査することに時間を要しないという面では、車庫証明(自動車保管場所証明)の申請業務がお勧めです。
官公署に提出する書類の中では比較的取り組み易い業務と言えるため、初めての業務にはうってつけです。
新人の行政書士が、その事務所のある地域のディーラーから依頼をもらうのはなかなか大変ですが、市場規模が大きさ、県外のディーラーや個人の需要もあることから、事務所のホームページで紹介したり知人や友人に宣伝しておけば、ちらほら依頼が舞い込みます。
車庫証明(自動車保管場所証明)やその注意点ついては、機会を見て紹介したいと思います。
ここまで読んでいただいた方には、その甲斐があれば幸いです。